CASE当事務所の事例紹介
トラブル事例の問題点と対応策
当事務所へは人事労務上のトラブルをご経験され、対応策の相談に来られる事業主様も多くいらっしゃいます。
こちらでは、ご相談後に当事務所と顧問契約をいただいた事業所様の中から、実際に体験されたトラブルの内容を、問題点と対応策を併せてご紹介いたします。
CASE1. 解雇の有効・無効と年次有給休暇の買い取り
【概要】
A社社長のX氏は、日ごろから勤務態度の芳しくない従業員Yに対し、改善を促す意味で、「このまま勤務態度が改善されないようなら退職も考えてもらわないといけなくなる」という趣旨の注意をしたところ、Yは翌日から無断で会社に来なくなった。
無断欠勤が3日目となった日に、X社長のもとに労働組合の書記長と名乗る人物から電話があり、従業員Yが「一人労働組合」に加入した旨、並びにYは3日前に即日解雇を言いわたされたので、平均賃金30日分の解雇予告手当、未消化分の年次有給休暇20日分の買い取りを要求する旨を伝えてきた。
X社長はY側と何度か交渉し、当該案件は解雇ではない旨を主張したが、交渉自体に精神的な苦痛を受けていたこともあり、早期に解決をしたいという思いから、請求された額面の全額、約40万円を支払った。
①そもそも口頭で、「このまま勤務態度が改善されないようなら退職も考えてもらわないといけなくなる」と伝えることが解雇にあたるのでしょうか?
②年次有給化の未消化分を会社は買い取らないといけないのでしょうか?
結論と対応策
解雇とは、「使用者の一方的な意思表示によって労働契約を解消すること」をいいます。
今回のケースでは「退職してもらうようになりますよ」という使用者側の発言には、「解雇の意思」はなく、解雇が適正に成立していたという相手方の主張に対しては争う余地が十分にあったと考えられます。
解雇の要件、解雇手続き、解雇権者等を就業規則に具体的に明記するとともに、これらの規定に基づかない解雇は成立しない旨も就業規則に明記し、相手方の主張に抗弁できる備えをしておくことが必要となります。
また、年次有給休暇は、使用者側との雇用関係があることを前提としているので、退職日までに請求しなかった分は、退職日をもって消滅することとなります。(今回の場合はYが解雇されたとする日) 年休の買い取りについては、法律で定められた日数の年休を事前に買い取ることは違法とされておりますが、退職により年休を利用する権利が消滅してしまう場合には、残日数に応じて賃金を支給する=買い取ることは、事前に買い上げるものと異なるとされ、法律に違反するものではありません。 つまり買い取ることは使用者側の自由なのですが、言い換えると買い取る義務まではないということです。 今回のケースでは要求は拒否できたと考えられます。
年次有給休暇は計画的に取得させ、退職時に無用な要求をされないようにしておくこと、必要ならば退職時の買い取りは行わない旨を就業規則に明記しておくことが必要です。
こちらの事業所様では前述の事項を就業規則に加えていただきました。
CASE2. 退職金の適正金額
【概要】
B社は従業員の退職金の規定を設けていたが、金額の算定方法は「勤務年数・勤務態度・勤務成績・会社への貢献度・会社の業績等を勘案し、会社が決定し支給する」という内容であった。
B社に14年間務めた従業員Xに対し、退職金40万円を支払ったが後日、XとXが加入したという「一人労働組合」の事務局長と書記と名乗る3名が会社にやって来て、退職金の額が世間一般から比べて著しく金額が低く是認しがたいとして、退職金の増額を要求してきた。
B社は会社として決定した金額だからと説明するも、相手方は納得せず訴訟を匂わせる発言等もあり、顧問弁護士に依頼してX側と和解。
和解金として60万円の退職金の上乗せを支払うこととなった。
①そもそも退職金というのは払わないといけないものなのでしょうか?
②払うものとすればいくらくらい払うのが妥当なのでしょうか?
結論と対応策
就業規則には、必ず定めておかなくてはいけない「絶対的必要記載事項」、制度を設ける場合は記載しないといけない「相対的必要記載事項」、記載してもしなくてもいい「任意的記載事項」の3種類の記載事項があります。
退職金は「相対的必要記載事項」なので、制度を設けている場合には就業規則で、退職手当の適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払いの方法、支払いの時期等を定めておく必要があります。
「相対的必要記載事項」ですから、制度を設けても設けなくてもいいので、退職金は絶対に支給しないといけないものではありません。
しかし、このケースでは規定を設けているということは、制度が存在しているということですので、退職金の支払い義務はあります。
もし、原則退職金の支給をしない(支給するつもりはない)のであれば、規定は最初から設けない方がよいでしょう。
また、退職金に適正金額というものはありません。
あえていうなら、その会社がその人に支払ってもいいと思う金額が適正金額でしょうか。
金額を曖昧にしておくというのは、今回のケースのように、相手に訴えを起こされてしまうと予定より高くついてしまうこともあります。
制度を設ける以上は、誰が見ても明確な計算式、または金額を記載しておく必要があります。
ポイントとしては、支給金額はある程度最低限度金額になるように設計しておき、長年会社に貢献してくれた従業員に手厚く支払いたい場合に対応できるよう、「特別慰労金規定」や「付加給付規定」等を規定しておくとよいでしょう。
こちらの事業所様は、既存の従業員さんの既得権を確保した上で経過措置を設け、個別合意を取り付けた上で、将来的に退職金の制度を廃止するようにいたしました。
CASE3. 残業代込の基本給
【概要】
C社に労働基準監督署から連絡があり、労働条件に関する調査を実施するので、後日必要書類を持って出頭するようにと告げられた。
労働基準監督署の指定日に必要書類を持って社長のZ氏が出頭し、調査を受けたところ、労働者2名の未払い残業手当を指摘された。
Z社長は残業代は基本給に含まれており、従業員ともその条件で合意がなされている旨を主張したが聞き入れてもらえず、2名分の残業手当を過去2年分について、直ちに支払うよう、是正勧告を受け、Z社長は次の給与支払日に未払い残業手当として指摘を受けた金額約130万円を支払った。
①基本給に残業手当は含まれているという主張はなぜ通らなかったのでしょうか?
②今の支払い給与を変えずに残業代を合法的に支払うことはできないのでしょうか?
結論と対応策
基本給に残業代が含まれているという主張は、その残業代が何時間分でその金額がいくらであるかというところまでが、客観的に分かる形にしておかなければ認められません。
労働基準監督官は労働時間を適正に管理し、それに基づいて法律通り正しく賃金を支払うことを指導している立場です。
単に残業代込の基本給を支払っているという主張は、「基本給の中に残業代が何時間分か分からないけど含まれているんです」と言っているのと同じで、監督官からすれば、「この会社は労働時間管理が適正に行われていない」というジャッジをされ、決して見逃してはくれません。
したがって、基本給に含まれている残業代が客観的にみて何時間分の残業代なのかわかるようにしておく必要があるのです。
こちらの事業所様には、基本給を「基本給」と「固定残業(割増)手当」にはっきりと分けていただき、就業規則にも「固定残業(割増)手当」の定義を明記し、対象の従業員に対して説明会を実施した上で、改めて固定残業手当の記載のある労働条件通知書交付していただきました。
●固定残業手当の具体例
基本給…250,000円 職務手当…50,000円 残業が月に30時間があった場合
残業単価は2,168円となり、30時間分の残業代65,040円の支払いが必要になります。
これを賃金の請求権消滅時効のかかる2年前まで遡って支払うことになった場合は、実に1,560,960円にもなり、同じような従業員が5人いたとすれば約780万円もの支出になってしまいます。
この例で基本給の250,000円を基本給190,000円と固定残業手当60,000円(30時間分)としておいた場合は、追加の支払いは0円になります。
きちんと手続きをしておけば、780万円のリスクは回避できるのです。
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